Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident


Draft document: Radiological Protection of People and the Environment in the Event of a Large Nuclear Accident
Submitted by Marina Watabe, as individual
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原子力発電の事故による放射線の急性被ばくについて説明がされているが、新草案では、これまでのICRPの勧告と同じく、低線量ひばくによる人体への影響、また呼吸・9・9飲食によって放射性物質が体内に取り込まれる内部被ばくの甚大な影響について充分に語られていないことが問題点である。汚染地に住み続けることによる長期的な低線量被ばくや、事故で拡散した放射性物質がわずかでも体内に入った場合の人体への影響は、長年専門家が指摘しているところである。ICRPはこういった指摘を、深刻に受け止めるべきで、新草案に記された現基準の事実上緩和を見直すべきである。

草案22項で、100mV未満の全身曝露について、がんの発生率が上がるという科学的証拠はないとしている。致死的ながんで25%のリスクに0.5%リスクが増える程度としている。

しかしDr. Olha V. Horishnaは、Chornobyl’s Long Shadow の中で、チェルノブイリ被災者が分類された4グループについて調査を行っている。そのなかで避難者グループを例にとる。個人の被ばく線量は、平均値で15.3mVとされ、最高50mVの線量を受けた人もいた。それでも、このグループに属する人達の被ばく量はICRPの新勧告の100mV上限よりははるかに低い。

同グループの確定的影響群としてDr. Horishnaは放射線に由来する身体的諸影響をあげている。その影響は栄養血管性ジストニア症候群、無気力症候群、神経症、心気症、うつなどの診断にまぎれる。同グループの、胎児期・9・9出産前に被ばくした子供たちは、各機能障害(精神発達遅滞、情緒障害、自律神経、循環器系、呼吸器系、消化器官)を持つ傾向が強い。

またDr. Horishnaは、汚染を受けた人の疾病率は、子供の疾病率を含め着実に増加していると指摘する。疾病率は事故処理作業者グループ、避難者グループ、汚染地域居住者グループの順に高く、博士の調査によると1987年から2004年までのあいだで、成人と青少年の疾病率は4.2倍に増加。同じ時期の子供の疾病率は3.1倍である。内訳は、新生物・9・9腫瘍等の発症率は8倍、悪性疾患の増加5.5倍、身体と精神の障害は2倍に増加。泌尿生殖器系の疾患はほぼ7倍、先天性異常は5倍に増加した。

Dr. Horishnaは、放射能汚染地域に住む子供、10代の若者たちに目立つ特徴として、長期的な慢性病疾患に至る臓器や系に起こる機能不全が急速に進行していることを上げている。2004年の成人および青少年の疾病は1位が悪性腫瘍を含む腫瘍、次に循環器系疾患、次に神経系疾患であった。

特に循環器系疾患は草案41項で示されているような、二次的健康問題ではなく、放射性被ばくによる直接的健康被害だと考えるべきである。

よってICRPの予測は各疾病リスクを過小評価しすぎている。

草案41項で、チェルノブイリと福島での事故後の二次的健康問題として、糖尿病の増加や循環器疾患の増加、高脂血症や高血圧などの慢性疾患、などが、事故による生活習慣の変化による結果として紹介され、放射線被ばくとは関係ないとされている。

しかしYuri. I Bandazhevsky博士の指摘によれば、放射性セシウムに汚染された地域に住む子どもの高血圧が高い確率で見られる。また、放射性セシウム137の体内蓄積量と、心電図異常、慢性心疾患、心筋異常に関連性がみられる。動物実験では、セシウムの体内蓄積量が多いほど様々な病変が起こり心臓異常の程度が重くなった。(Yu. I Bandazhevsky, Medical and Biological Effects of Radiocesiumincorporated into the Human Organism, Chapter 2.1)

草案54項で住民の避難・9・9屋内退避について、小規模のコミュニティーで有効であり、長期的な大規模避難、退避は破壊的としている。

強制避難または自主避難は、放射線被ばくによる短期・9・9長期の人体への影響を最小限にとどめるのに非常に有効である。避難の期間については、事故で放出された各放射性物質の半減期によって判断されるべきである。放射性各種によっては、非常に長期間あるいは半永久的に土地を汚染し続けるので、チェルノブイリや福島のような大規模な事故については帰還は現実的でないと考える。長期の大規模避難あるいは屋内退避が有効でないと考える根拠をこの草案は十分に示していない。

新草案77項で、緊急時の被災集団と対応者の被ばくレベルを100mV と勧告している。事実上の被ばく基準の緩和であり、人々の生命、健康を被ばくから守ろうとしていると思えない。チェルノブイリ災害後、リクビダートルの死亡率は年々上がり続け、2004年には1989年の5.5倍となった(Chornobyl’s Long Shadow, Chapter3, fig.6)。

草案79項で、復旧者の年間被ばくを現在の年間1mV~20mVから上限の20mVに変更するとしている。

事実上の基準緩和であり、復旧者がより多くの被ばくを受けることになりうることは明白であり、到底許せることではない。

草案80項で、被災地域に住む人々に対し、Publication 111で行われた勧告、年間1mV~20mVの下方部分における参考レベルとした。新勧告では年間10mVを上限とするとしている。

新勧告では、国際機関、被災国、被災自治体が災害対応者・9・9汚染地域住民の被ばくを軽減しよう、最小限に抑えようという努力が失われる可能性が高い。ICRPはチェルノブイリでの過去25年間の被ばく者たちの疾病率、死亡率の高さを深刻に受け止めるべきであり、基準はむしろ現在より厳しくするべきである。福島の被害状況は事故後8年で未だ未知数であり、この時点での基準緩和は、福島の真の被害状況を看過することになりかねない。基準緩和は原子力災害の健康被害を過小評価するためで、原子力政策を推し進めていくためのものに他ならない。原子力災害は今後二度と起こしてはならないものであり、新勧告は重大な欠陥に満ちている。基準値の見直しを求める。


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